知恵袋の意外な一面

 マイクロソフト副社長ネイサン・ミルボルドは、ビル・ゲイツの知恵袋的存在で、先端技術に対する問題意識と理解力にかけては右に出るものがいない。
ケンブリッジ大学でノーベル賞受賞者のスティーブン・ホーキングに師事し、ホーキングの著作物のうち何冊かは彼が執筆を担当した。しかし、このままホーキングの下にいたのではノーベル物理学賞は望めないと判断して、マイクロソフトに加わった。ゲイツの著書『未来を語る』も八割は彼が書いたと言われるほどの切れ者である。
彼は仕事一筋の男ではない。夏場には二〜三ヶ月の長期休暇をとってフランスの一流シェフに弟子入りして料理の腕を磨いたり、全米バーベキューコンテストで優勝した人を三回訪問してソースやレシピを教わる。
時々、シアトル市にあるフランス料理の一流レストランで助手として厨房に入っている。そうかと思えば、F1の講習会に出かけていってライセンスを取得したり、自宅に日本の伝統建築「鳴き竜」をつくろうとしたりする。
私たち日本人は、とかく仕事一筋になりがちで余裕がないが、ゆとりを持つことが、新しいアイデアを柔軟に発想する米国の強さにつながっているような気がする。

いつか必ず「陽が当たる」人

 議案決議の投票を見ていると、その非効率さに腹が立つのは今に限ったことではない。
エジソンは1868年に「電気式投票記録機」の特許を取ったが、「こんなものがあったら、投票を少しでも引き延ばそうという戦術を野党側は取れなくなる」と採用されなかった。
アメリカ議会が、電気を使った投票集計システムを導入したのは実に百年も後だ。発明家はともすると発明そのものにのめり込んで、誰がそれを欲しがっているかを考えるのを忘れる。学者や趣味ならそれでもいいが、それでは飯が食えない。企業家としては、多くの人々が必要とするものを発明することが大切である。
 ミサワホームの三澤千代治さんは、肺結核で入院生活中に木質パネル工法を思いつき特許を取ったが売れない。自分で始めてみると、現場を知らない思いつきだったことを身に沁みて感じた。しかし、諦めずにさんざん苦労してものいんしたから今日がある。
 すぐに事業化できなくても、五年、十年と辛抱して育てていく姿勢が大切です。本当にいいアイデアなら、必ず発展するし、人の目にとまって運が向いてくることもある。成功の秘訣は、現場に徹して「成功するまで諦めない」ことである。

一点凝視が人間を磨く

 一つのことに打ち込んで、それを究めることによって、初めて真理に達することができ、森羅万象を理解することができると思う。
たとえば、長年仕事に打ち込み、素晴らしい技術を修得した大工さんの話などに人生のことを聞くと、素晴らしい話をされる。また、修行して人格を磨いてきたお坊さんは、異分野の話をしても素晴らしい真理を説かれる。その他、庭師、作家、芸術家など一芸を究めた人の話には、非常にうんちくがある。
 学校を出たばかりの若い人は、会社に入って地味な仕事ばかり続くと「こんなことばかりしていいのだろうか」と不安に思い、「他の仕事をやらせてほしい」と言い出す。
しかし、それは違う。広く浅く知ることは、何も知らないことと同じである。深く一つのことを探求することによって、すべてのことに通じていくのである。
それは、すべてのものの奥深くに、それらを共通に律している真理があるからだと思う。一つのことを究めることは、すべてを知ることになると稲盛和夫さんは熱く語る。
自分を作り上げるために、集中できる何かを持ち、それを究めることが大切である。

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